戦国時代。
「白鷺城」の異名を持つ美しき姫路城第五重。
ここは魔界の者たちの棲み家。あまた居並ぶ妖怪たちをつかさどるは天守夫人富姫。今日も富姫を慕って、猪苗代から妹分の亀姫が大入道を引き連れてやってきた。手土産はなんと、猪苗代の城主、武田衛門之介の生首。これには天守に棲む魔物たちも大喜び!
富姫は心入の土産の礼にと、姫路城城主・武田播磨守ご自慢の純白の鷹をおびき寄せ、亀姫に持たせる。彼女たちにとっては些細な座興──
だがこのいたずらが、運命のきしみを呼び寄せる。
「人間が足を踏み入れれば決して生きて帰れぬ」ゆえ誰一人登ろうとしない第五重に、ひとりの侍が現れた。若き鷹匠、姫川図書之介。彼は播磨守ご寵愛の鷹をそらした責を問われ、切腹のかわりに鷹探しに遣わされたのだった。
噂に違わぬ富姫の存在をまのあたりにしながら、図書之介は臆することなく五重に参ったわけを述べ、富姫はそのすずしさに心を動かされる。「鷹は私が取りました。鷹は第一、誰のものだと思います。鷹には鷹の世界がある」と威圧しながらも、図書之助に惹かれてゆく富姫。とはいえ命を奪うのはためらわれ、「今度来ると帰しません」と地上へ戻す。
が、地上に戻った図書之助は、播磨守より思いもかけぬ咎を受け、否応なく富姫の元に再び現れる‥‥‥。
異界のもの同士の間にだけ許される、純粋な「恋」。
幻想世界の中に人間のもっとも美しいありようを浮かび上がらせることに生涯をかけた泉鏡花の、最高傑作と呼ぶにふさわしい結晶である。
(公演チラシより)
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