文化庁・芸術文化振興会舞台芸術振興事業
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【序幕】 【一幕】 【二幕】 【三幕】 【四幕】 |
■ごあいさつ 〜 美味食わば皿まで |
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95年以来、ク・ナウカの春の新作はまず富山県利賀村の「利賀新緑フェスティバル」で初演されることになっています。ちょうど1年前、そのフェスティバルのパンフレットに僕は「今年の標語」として「でかい敵と闘おう、1997」と書き、そして去年の春ク・ナウカは実際にその「でかい敵」の第一弾として、三島由紀夫の『熱帯樹』に取り組みました。 でかい敵と闘う、とはどんなことか。それは小劇場育ちの自分たちにとってくみし易い原作ばかり選んだり、自分たちの土俵に原作を矮小化して引きずり込んだりせず、原作の「演劇史的意義」「演劇史に対して果 たした役割」をちゃんと踏まえて、それをはぐらかす事なく、しかも批評的に上演する、という事です。そこには当然原作の有効性の限界や時代的制約を看破するという作業も含まれますが、逆にいえばそのためには、その原作の持つ有効性を最大限に発揮させ、時代を超えた普遍性を引き出す、という作業がその前提になってくるわけです。でかい敵と闘うという事はすなわちク・ナウカが演劇史と対峙するという事ですが、そのために稽古場で行われることはまず演劇史に赫赫たる足跡を残す原作の、その「でかさ」を逐一見定めていくことにほかなりません。 敵、には(1)西洋古典演劇 (2)日本古典演劇 (3)近代劇、の3つがあるわけで、三島に取り組むことはク・ナウカとして初めて(3)近代劇 と向かい合うことでしたが、今年は(2)です。 鶴屋南北の『桜姫東文章』は、日本古典演劇と正面から向き合おうと志したものが避けて通 れない大きな門だと言えるでしょう。60年代以降の小劇場運動の中でも、何人かの演出家によって、伝説的舞台が創り出されてきました。ク・ナウカにとっては、“二人一役”の手法になじむ丸本物よりもはるかに手ごわい南北ものです。 稽古場ではまず江戸歌舞伎の到達点を(いちいち驚きながら)「摂取」しています。あんまりにも栄養豊富なご馳走なので、その摂取には生半可でない時間がかかります。けれど去年の春に三島の『熱帯樹』をやったおかげで、その次の公演、去年の秋の『エレクトラ』においては「西洋古典演劇」というのがいかなるものなのかが僕らのなかで以前よりもはるかに明瞭に把握できるようになったように、今回の挑戦もまた、われわれの今後の視界を少しクリアにしてくれるに違いないと確信しています。 (東京公演パンフレットより) |