文化庁・芸術文化振興会舞台芸術振興事業
善悪ハ知ラズ。
真偽ハ問ワズ。
デモ美醜ダケハ解リマス
体ガ教エテクレルカラ。

 

1998年5月8日(金)〜15日(金)〈全8回公演〉
会場:目白・旧細川侯爵邸 庭園

原作=四世鶴屋南北
台本監修=郡司正勝
演出=宮城聰

 
【序幕】  
清玄&権助
桜姫
僧・残月
桜姫の弟・吉田松若
粟津の七郎
局・長浦
入間悪五郎
僧侶
腰元たち
阿部一徳/高田恵篤
原郁子/美加理
中野真希/吉植荘一郎
荒井万理/榊原有美
ジェローム・ヴァキエ/大高浩一
萩原ほたか/中村優子
松浦眞人/菅野由夏
徳永崇&木下貴道
宮坂庸子&藤井愛&寺内亜矢子&原田玖美子
【2幕】  
清玄
桜姫
入間悪五郎
粟津の七郎
桜姫の弟・吉田松若
悪五郎の手下
阿部一徳/高田恵篤
原郁子/美加理
松浦眞人/菅野由夏
ジェローム・ヴァキエ/大高浩一
荒井万理/榊原有美
中村優子&徳永崇&藤井愛&木下貴道
【3幕】  

僧・残月
局・長浦
百姓長八
古手屋九郎八
お十
清玄&釣鐘の権助
判人勘六
桜姫

中野真希/吉植荘一郎
萩原ほたか/中村優子
木下貴道/藤井愛
大高浩一/徳永崇
榊原有美/宮坂庸子
阿部一徳/高田恵篤
松浦眞人/荒井万理
原郁子/美加理
【4幕】  
綱右衛門
釣鐘の権助
粟津の七郎
お十
五人組連中
判人勘六
桜姫
吉植荘一郎/中野真希
阿部一徳/高田恵篤
ジェローム・ヴァキエ/大高浩一
榊原有美/宮坂庸子
徳永崇/木下貴道
松浦眞人/荒井万理
原郁子/美加理

 

 

照明
照明スタッフ
音響
衣裳
衣裳協力
小道具
空間構成
舞台監督
舞台スタッフ
音楽監督
制作

大迫浩二
岩崎美緒
水村良(AZTEC)・千田友美恵
久保寺素子
アトリエ永田・野沢恵美
会田夏実
斉藤史朗
原勲夫
埋橋真理
棚川寛子
斉藤千佳子・久我晴子

 

 

【序幕】
 鎌倉・長谷寺の清玄と、相承院の稚児・白菊丸は衆道(男色)の関係に陥り、江ノ島児ヶ淵で心中を図るが、清玄はひとり死に損なう。

【一幕】
 十七年後。清玄は今では、生き仏ともあがめられる高僧にまでのぼりつめている。  一方、朝廷の神祗官を勤める吉田家では、昨年から不幸が絶えない。吉田家押領をたくらむ入間悪五郎は、釣鐘権助を手先に使って、吉田家の当主・維貞卿と子息・梅若を殺害させたうえ、お家の重宝・都鳥の一巻を奪い取る。また、許嫁である吉田家の息女・桜姫との婚約を、生まれつき左の手が開かぬ ということを理由に破棄してしまう。
桜姫は左の手の開かぬ身をはかなんで、清玄のところへ出家したいと申し出る。清玄が念仏を授けると、不思議にも左手が開き、中から清玄の名を書いた香箱が出て来る。それはまさしく、十七年前白菊丸が入水の折りに握りしめていた香箱であり、清玄は姫が白菊丸の生まれ変わりだと悟る。
桜谷の草庵で出家の時を待っている桜姫のもとへ、釣鐘権助が、悪五郎からの手紙を持って現れる。悪五郎は、姫の左手が開いたと聞いて、撚りを戻そうというのである。
権助が、腰元たちを前に興に乗って幽霊の落噺をするうち露わになった二の腕の釣鐘の彫り物を目にとめた桜姫は、この男こそ、自分の探し求めていた男だと知る。一年前、姫は、屋敷に忍び入ってきた盗賊に犯されたのだが、以来その男のことが忘れられず、ひそかにその男の子供を生み落とし、二の腕に男と同じ彫り物までして、男とふたたび会えることを心待ちにしていたのであった。
人を遠ざけ、庵の中で二人が枕を交わしているところへ、権助の帰りの遅いのを待ちかねた悪五郎がやって来て、密通 の現場を押さえる。が、権助はすばやく姿をくらまし、落ちていた香箱を証拠に清玄が罪をなすりつけられてしまう。

【二幕】
 桜姫と清玄は身分を剥奪され、稲瀬川のほとりにさらされる。里子に出していた赤ん坊まで返され頼るべき人をすっかり失った姫に向かって、清玄は、姫が自分に身を任すなら力になってやろうと迫る。悪五郎や吉田の旧臣がやって来て、善悪相争ううち、姫と清玄は散り散りになり、赤ん坊を抱いて清玄は姫を捜し歩く。

【三幕】
 清玄は、以前の弟子の残月と桜姫の局であった長浦の二人が営む庵室に身を寄せているが、すっかり病みほうけている。残月と長浦は、清玄が首にかけていた香箱を金と勘違いして青蜥蜴の毒で清玄を殺してしまう。そのとき毒のかかった清玄の頬が紫色に変わる。長浦は死骸を埋めるため、穴掘りの権助を呼びに行く。一方桜姫は、あてどなくさまよっていたところを女衒に拾われ、これも庵室に連れてられて来て、権助と桜姫は思いがけなく再会する。言いがかりをつけて残月・長浦を追い出した二人は、庵室にいすわる。
権助の外出中、激しい落雷の音で清玄が息をふきかえす。清玄は桜姫の姿を見て、かねての思いをとげようと刃物まで持って迫るが、身を守ろうとした姫と争ううち、逆に刃物がのど笛にささって死んでしまう。折から帰ってきた権助の片頬には、清玄の頬にあったのと同じ醜い紫色のあざが出来ていた。 

【四幕】
 権助は桜姫を小塚原の女郎に売り飛ばし、大家の株を買って長屋の家主におさまっている。そこに女郎に売られていた桜姫が店から返されてくる。桜姫は二の腕の彫り物から風鈴お姫と呼ばれていて、どの店に出ても大変な評判になっていたが、しばらくすると決まって枕元に幽霊が立つという噂が立って、鞍替えさせられてしまうのだった。
権助が町内の寄り合いに出かけた留守に、清玄の幽霊が現れる。そして件の捨て子が桜姫の生み落とした子であると告げて消える。
帰宅した権助は、酔った余り、自分がお守りのように見せて持っているのが盗み取った都鳥の一巻であることを、また、隅田川のほとりで梅若を殺害したことなどを洩らしてしまう。さては権助こそ吉田家の敵と知った桜姫は、酔いつぶれた権助と赤ん坊をわが手で殺し、都鳥の一巻を奪い返す。

 

■ごあいさつ 〜 美味食わば皿まで
 宮城聰

   95年以来、ク・ナウカの春の新作はまず富山県利賀村の「利賀新緑フェスティバル」で初演されることになっています。ちょうど1年前、そのフェスティバルのパンフレットに僕は「今年の標語」として「でかい敵と闘おう、1997」と書き、そして去年の春ク・ナウカは実際にその「でかい敵」の第一弾として、三島由紀夫の『熱帯樹』に取り組みました。
 でかい敵と闘う、とはどんなことか。それは小劇場育ちの自分たちにとってくみし易い原作ばかり選んだり、自分たちの土俵に原作を矮小化して引きずり込んだりせず、原作の「演劇史的意義」「演劇史に対して果 たした役割」をちゃんと踏まえて、それをはぐらかす事なく、しかも批評的に上演する、という事です。そこには当然原作の有効性の限界や時代的制約を看破するという作業も含まれますが、逆にいえばそのためには、その原作の持つ有効性を最大限に発揮させ、時代を超えた普遍性を引き出す、という作業がその前提になってくるわけです。でかい敵と闘うという事はすなわちク・ナウカが演劇史と対峙するという事ですが、そのために稽古場で行われることはまず演劇史に赫赫たる足跡を残す原作の、その「でかさ」を逐一見定めていくことにほかなりません。
 敵、には(1)西洋古典演劇 (2)日本古典演劇 (3)近代劇、の3つがあるわけで、三島に取り組むことはク・ナウカとして初めて(3)近代劇 と向かい合うことでしたが、今年は(2)です。
 鶴屋南北の『桜姫東文章』は、日本古典演劇と正面から向き合おうと志したものが避けて通 れない大きな門だと言えるでしょう。60年代以降の小劇場運動の中でも、何人かの演出家によって、伝説的舞台が創り出されてきました。ク・ナウカにとっては、“二人一役”の手法になじむ丸本物よりもはるかに手ごわい南北ものです。
 稽古場ではまず江戸歌舞伎の到達点を(いちいち驚きながら)「摂取」しています。あんまりにも栄養豊富なご馳走なので、その摂取には生半可でない時間がかかります。けれど去年の春に三島の『熱帯樹』をやったおかげで、その次の公演、去年の秋の『エレクトラ』においては「西洋古典演劇」というのがいかなるものなのかが僕らのなかで以前よりもはるかに明瞭に把握できるようになったように、今回の挑戦もまた、われわれの今後の視界を少しクリアにしてくれるに違いないと確信しています。
(東京公演パンフレットより)